こんな本を読みました。
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ジェノサイド 上 (角川文庫)
2016年12月20日 (火) 17:11 | 編集
 「ジェノサイド」(高野和明/角川文庫)読了。

 同じ作者の「グレイヴディッガー」を以前読んだことがあり、面白かったのですが、今作も非常によく出来てました。

 思わせぶりにならないスピード感と、世界を股にかけた圧倒的スケール感。

 アメリカの情報機関が察知した“人類絶滅の危機”の謎が前半割と早い時期に判明します。

 それを踏まえて、そこからの展開がすごい。

 アメリカの政府内部の動き、アフリカに派遣された傭兵たちの戦い、日本での新薬の開発の話が並行して、互いに見事に絡み合いながら物語は進みます。


ジェノサイド 上 (角川文庫)ジェノサイド 上 (角川文庫)
(2013/12/25)
高野 和明

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異星人の郷 下巻
2014年02月10日 (月) 21:23 | 編集
 「異星人の郷(下)」(マイクル・フリン/創元SF文庫)読了。

 後半は村を黒死病(ペスト)が襲います。
 文明の進んだクレンク人といえども、不十分な機材と異星人である人類の病気には太刀打ちできません。

 異なる文明をもった(相手は宇宙人ですから)者同士が、段々と理解し合うようになっていく過程が感動的でした。

 上下巻の長編でしたが、長いとは感じませんでした。

 現代のパートでは、歴史学者が見事にこの過去の出来事を解き明かすのですが、ちょっと強引な感じで、いま一つぴたっぴたっとパズルのピースがはまるような快感がなかったのが残念といえば残念か。
 しかし、ラストもラスト、過去と現在が交差する鳥肌が立つような瞬間は、SFでなければ味わえないカタルシスでしょう。

 傑作でした。


異星人の郷 下 (創元SF文庫)<星人の郷 下 (創元SF文庫)
(2010/10/28)
マイクル・フリン

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異星人の郷 上巻
2013年10月02日 (水) 21:00 | 編集
 「異星人の郷(さと)」(マイクル・フリン/創元SF文庫)の上巻を読了。

 14世紀のドイツの田舎の村に宇宙船が不時着という、とんでもないアイデアのファーストコンタクトものSF。

 この村の話と、昔何か変なことがあったらしいと嗅ぎつける現代の科学者の話が交互に進んでいきます。

 ケン・フォレットの「大聖堂」みたいな感じで、昔の田舎の生活がよく描かれています。

 話の進み方にもったいぶった所がなく、主人公である村の神父と異星人(クレンク人と呼ばれる)とのコンタクトも物語の前半にあっけなく訪れます。

 むろん、この時代の村人に宇宙人などという概念はないので、どこか遠いところからやってきた外見のおかしな人たちという捉え方をするもの、あるいは悪魔がやってきたと考えるものなどいるわけです。

 一方、クレンク人は、宇宙船が壊れたため故郷に帰れなくなり、なんとか人間に頼って船を修理しなくてはなりません。
 そして、さすが宇宙人、頭に巻きつけると言葉を翻訳してくれる自動翻訳機を使って人間と会話ができるようになります。

 科学力では遥かに劣っている人類と、技術力は確かにすごいが、すぐに暴力をふるい階級が固定されている野蛮なクレンク人お互いどのように関わり変化していくか、それだけでも興味深いお話になっているのですが、歴史に埋もれた出来事を解明していく現代人のエピソードが加わり、物語のひねり方がうまいです。

 現在の統計歴史学者トムが、昔は確かに存在したのに、地上から消え去ってしまった村を発見します。
 どうもこの消え去りだれも住みつかなくなった村というのが、ずばり本書の舞台らしいのです。
 いったい何が起こったのか?

 お話は下巻へ・・・。

異星人の郷 上 (創元SF文庫)異星人の郷 上 (創元SF文庫)
(2010/10/28)
マイクル・フリン

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ロング・ドッグ・バイ
2013年04月20日 (土) 21:01 | 編集
ロング・ドッグ・バイ (PHP文芸文庫)ロング・ドッグ・バイ
(PHP文芸文庫)
(2012/11/17)
霞 流一

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ロング・ドッグ・バイ」(霞 流一/PHP文芸文庫)読了。

 犬が主人公の探偵小説です。

 犬が考え、犬同士では会話ができ、人間は犬にこのような能力があるとは知りません、というパターンの小説です。

 雑種犬のアローは人間に飼われている普通の犬ですが、様々な事件を暴いてきた探偵犬なのです。
 このアローが、柴犬のボンタから事件の依頼を受け、仲間とともに調査を開始します。

 血なまぐさい事件が起こるわけではないですが、最後のなぞ解きはちゃんと凝っていて、推理小説としてよく出来ています。

 犬好きの人ほど楽しめると思います。




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キラー・エリート
2012年09月29日 (土) 10:30 | 編集
キラー・エリート (ハヤカワ文庫 NV)キラー・エリート (ハヤカワ文庫 NV)
(2012/04/20)
ラヌルフ・ファインズ

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 「キラー・エリート」(ラヌルフ・ファインズ/ハヤカワ文庫NV)読了。

 約二十年前のベストセラー(「The Feather Men」)だそうですが、映画化に伴い再版されたのだそうです。
 
 実際にあった話、という体裁で進む小説で、どこまで本当でどこまで嘘なのか、全く分かりませんが、「著者まえがき」にはこうあります。

 亡くなった男たちの遺族の方たちの全面的な協力を得て、主要な役目を担う彼らを本名で登場させ、その人生をここに紹介することができた。遺族を代表する人たちに校正刷りを読んでいただき、身内の人たちが登場する場面には一ページずつ承認のためのサインをいただいた。本書が実話であるかどうかの判断は、読者の方々に委ねよう。(p.5)



 オマーンの山岳部族の元族長が、戦闘中に自分の息子を殺害した人間を探し出し、復讐するようにプロの殺し屋に依頼するところから話は始ります。
 一方、イギリスには「フェザーメン」という秘密結社が存在します。
 警察が対応できないような犯罪に秘密裏に対処する、という組織なのです。

 暗殺の対象となるのは、昔オマーンで活動していたイギリスの特殊部隊SASの隊員たちで、殺し屋たちは全く証拠を残さずに犯行を重ねていきます。
 そして、理由は分からないながらも、暗殺に気づいた「フェザーメン」のメンバーがその防止に動き出す、という内容です。

 派手なアクションはほとんどなく、リアルな描写が積み重ねられていきます。
 リアリティがあるだけに、殺し屋たちと「フェザーメン」の攻防に手に汗握って時間を忘れてしまう出来栄えです。

 作者は名の通った冒険家で、元SAS隊員なのだそうです。





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永遠の0(ゼロ)
2012年04月05日 (木) 22:05 | 編集
永遠の0 (講談社文庫)永遠の0 (講談社文庫)
(2009/07/15)
百田 尚樹

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 「永遠の0(ゼロ)」(百田尚樹/講談社文庫)読了。

 終戦から60年目の夏、司法試験に落ち続けてぶらぶらしていた健太郎に、祖父の生涯を調べてほしいという依頼が舞い込みます。
 その祖父は太平洋戦争中、零戦のパイロットで、終戦の直前に特攻で命を落としたのだという。

 最初は会ったこともなく、親近感もない祖父の調査に気乗りしなかった健太郎。
 ですが、祖父を知る戦友たちの証言を集めながらその素顔に触れるにつれ、調査にのめりこんでゆく。

 生前を知る人々の証言で、今は亡き人物像を浮かび上がらせるという、「市民ケーン」的な手法で話が進みます。

 読んでいて、この健太郎が調査にのめりこむ過程と、読者の興味の深まりとが同期して、いつの間にか、ページを繰る手が止まらなくなります。

 歴史上の出来事として知っているつもりだった事柄が、生き残りの証言という生な形で提示され、全く違った戦争観を与えられます。
 小説なのかノンフィクションなのか、段々と境目が分からなくなってきます。

 戦争の悲惨はもちろんですが、一人の人間の人生と、その生きざまの波紋が周りに及ぼしてゆくドラマに、胸が一杯になります。
 評判のいい本であるとは知っていたのですが、これほどの威力とは全く予想外でした。

 正直、ラストは涙涙でした。

 感動と同時に、自分の生き方を振り返るいい機会にもなりました。

 作者は戦争の生き残りの言葉を使って、作戦の失敗の原因、責任をだれも取らないといういまだに蔓延る日本の問題なども、鋭く抉り出してみせ、ミクロとマクロの視点が物語に厚みを与えています。

 老若男女、すべての日本人に読んでいただきたい、名作です。

 と、ここまで書いてもまだ読むかどうか迷っている人、巻末に児玉清氏のすばらしい解説があるので、まずそれを読んでみてください。




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犬の力
2011年08月30日 (火) 22:34 | 編集
犬の力 上 (角川文庫)犬の力 上 (角川文庫)
(2009/08/25)
ドン・ウィンズロウ

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 「犬の力」(ドン・ウィンズロウ/角川文庫)読了。

 「このミステリーがすごい2010年度版」海外編第一位だそうです。

 1975年から2004年に至る、約30年に及ぶ南北アメリカ大陸を舞台とした麻薬戦争を描く大長編です。

 もっとゆったりとした大河小説かと予想していたのですが、近代エンターテインメント小説の見本とでもいいますか、話の展開が早く、緊張の糸が張り詰めたまま、あっという間にラストまで疾走していきます。

 登場人物の数と物語の複雑さを考えると、このスピード感はいかにもすごい。

 人によっては、際限なく続く暴力、むき出しの欲望や裏切りなどの人間の醜さに辟易として、途中で放り投げてしまうかしれません。
 が、見ないふり見えないふりをしようとしまいと、こういう現実が世界にはあるということは理解しておかないと、いけないかもしれません。

 現実の歴史とフィクションを上手く混ぜ合わせてあり、書き手の上手さにとにかく舌を巻きます。





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邂逅の森
2010年01月17日 (日) 15:55 | 編集
邂逅の森 (文春文庫)邂逅の森 (文春文庫)
(2006/12)
熊谷 達也

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 「邂逅の森」(熊谷達也/文春文庫)読了。

 物語は大正三年の冬から始まります。

 主人公・松橋富治は秋田の貧しい小作農の次男坊で、マタギを生業として暮らしていました。

 マタギというのは、夏場は農業などをして、冬は山中に入り、熊やカモシカなどの猟をする人々のことです。
 山の神々への敬虔な信仰を持ち、古い伝統を守りながら猟を行います。
 獲物さえ獲れればよいという近代的装備のハンターとは違う種類の人々なのです。

 富治は単なる職業というレベルを超えて、マタギを生き甲斐とする男なのでした。
 しかし、偶然知り合った地主の一人娘と恋に落ちてしまい、地主の逆鱗に触れ、村を追放されると同時にマタギ仕事も取り上げられてしまいます。
 ほとんど強制的に鉱山で働かされるものの、マタギ仕事の魅力が忘れられずまた山に帰ってゆき、そして・・・。


 直木賞、山本周五郎賞をダブル受賞という話題性で題名だけは記憶にあり、とりあえず買ったもののそれっきり積読状態だったのですが、ようやくしっかりした本を読みたい気分が巡って来て、読んでみました。

 なんでもっと早く読まなかったのでしょうか。
 もの凄い傑作でした。
 重たいとか読みにくいとかいうことは全くないので、ご安心ください。
 ちょうど冬の季節に読んだというのも良かったです。
 完全に物語の中に引きずり込まれました。

 特に最後の数ページは体中の血が逆流するような興奮を非常に久々に味わいました。

 全く予備知識のない世界が描かれているにもかかわらず、これだけ物語の中に入り込めてしまうという事はは、この作品がいかに高い完成度であるかっつーことでしょう。

 大自然の中での圧倒的迫力の狩猟シーンと、里に降りてきた時の庶民としての生活のコントラストが素晴らしい。
 普段はごく普通に悩みもあれば欲もある人間が、山に入るとすーっと変わるのです。
 自然と人間の関わり方の、昔の人は知っていたのに現代人は忘れてしまっている何かを知るヒントが隠されている気がします。

 他人や自然の力で翻弄され揉みくちゃにされながらも、なんとか最善の方法を探し、運命を切り開いてゆく富治の生き方に、多くの人は共感できるでしょう。
 あるいは、もっと大げさに言えば、本を読んでいる間は富治になりきって彼の人生を体験することになるでしょう。

 これから先の人生で行き詰ったときに繰り返し読みたい、傑作でありました。


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王者のゲーム
2009年11月18日 (水) 21:53 | 編集
王者のゲーム (上) (講談社文庫)王者のゲーム (上) (講談社文庫)
(2001/11)
ネルソン・デミル

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王者のゲーム (下) (講談社文庫)王者のゲーム (下) (講談社文庫)
(2001/11)
ネルソン・デミル

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 「王者のゲーム」(ネルソン・デミル/講談社文庫)読了。

 パリで自首してきたテロリストを護送して、JFK空港に向かっていたジャンボジェット機が、交信を途絶えさせたまま着陸。
 機内を調べると、乗員・乗客300人以上が有毒ガスで死んでいるのが発見される。
 テロリストはその混乱に乗じて、まんまとアメリカ国内に潜入してしまう。
 彼の任務は、1985年4月15日にリビアを爆撃したパイロット達を殺すことだった。

 9.11前に書かれた本ですが、いつかとんでもない事がアメリカ国内で起こるだろう、という危機意識があったのだということがよく分かります。
 危機感はあっても、そういう事態にどう対処したらよいのか分からないのが自由の国アメリカだったのです。

 あの警官は、本来ならさっそく職務を果たすことにとりかかり、手はじめにこのパトカーのトランクをあけろと命じてしかるべきだった。(略)しかし、アメリカという国はこんな事態への心がまえができていない。そう、心がまえがまったくのゼロだ。(上巻 p.207)



 テロリストを追跡するのは架空の組織「ATTF(アメリカ連邦統合テロリスト対策特別機動隊)」の捜査官ジョン・コーリー。
 デミルはこのコーリーを主人公にして他にも何冊か書いているようです。
 しかし追跡といっても、前半はほとんどやることがない。
 手配写真をTVで放送するくらいで、テロリストを追いかける方法がないのです。
 手をこまねいているうちに、テロリストは着々と任務をこなしていきます。
 コーリーが犯行の意図に気づくまでに、手際良く何人も殺されてしまいます。

 ハードボイルドなマンハント小説かと予想して読み始めたのですが、そういった堅苦しさは皆無で、というか、もう少し真面目にやってくれと思うくらい脱線しつつ話が進みます。

 後には何も残りませんが、とにかく読んでいる時は夢中になれます。
 一冊700ページ以上の上下巻なのですが、さすがベストセラー作家、最後まで飽きさせないで引っ張って行ってくれます。
 長い小説で暇つぶしする必要がある、という人にはお薦めです。


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信長の棺
2009年10月04日 (日) 21:36 | 編集
信長の棺〈上〉 (文春文庫)信長の棺〈上〉 (文春文庫)
(2008/09/03)
加藤 廣

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 「信長の棺」(加藤廣/文春文庫)読了。

 本能寺の変の知らせを安土城で知った、家来の大田牛一。
 実は、信長が本能寺に出発する前に、極秘に五つの木箱を託されていたのだった・・・。
 亡き信長の伝記「信長公記」の筆者大田牛一が、発見されていない信長の遺体の謎に迫る、という、歴史ミステリーです。

 秀吉が織田家一族を差し置いて、大徳寺で勝手に挙行した葬儀は全くの茶番劇だった。肝心の信長さまの棺の中は、ご遺骨不明のまま、代わりに焼いた木像の木灰だったという。(上巻 p.105)

 本能寺焼失後、光秀の娘婿の明智左馬助が数日の間、現場に留まり、徹底して信長さまの御遺骸を探し続けたと聞いた。(上巻 p.122)



 本能寺から信長と森蘭丸他数人の従者の遺骸が見つかっていないというのは、事実で、日本史最大のミステリーとも言われていることなのだそうです。

 話が多少脱線しつつ進み、テンポがいまひとつな感じがありますが、遺体の謎以外にも、本能寺の変そのものの真相、関係者の行動や思惑など、「なるほど、こういうことか」と、パズルのピースがぴたぴたとはまっていく快感が味わえ、久しぶりに読んだ歴史小説で、非常に楽しめました。

 信長びいきの主人公大田牛一と信長に批判的な登場人物たちとの、信長の評価をめぐる議論など、信長という人物を多面的に分析していて面白いです。
 それぞれの人の見方や感じ方によって、同じ出来事がまったく違った意味を持っていくる。
 歴史を記述することの難しさに懊悩する牛一は、作者の姿でもあるようです。

 ほとんどの人物描写はあっさりしているのに対して、秀吉の生々しい存在感が突出しているのですが、この次に出た本が秀吉の本であったということで、納得。



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青空のむこう
2009年08月29日 (土) 21:37 | 編集
青空のむこう青空のむこう
(2002/05)
アレックス シアラー

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 「青空のむこう」(アレックス・シアラー/求龍堂)読了。

 交通事故で死んだ少年ハリーが、「あの世」で目覚めます。
 死んだ人は、そこからてくてく歩いて、「彼方の青い世界」という場所に行くらしい。
 が「この世」に未練を残しているハリーは、どうしても「彼方の青い世界」に旅立つ決心がつきません。
 「あの世」にもう150年近くいるアーサーという少年と知り合いになったハリーは、アーサーの案内で「この世」に舞い戻ります。
 僕が死んだあと友達や家族はどうしているのだろう
 そして、事故にある直前に喧嘩した姉のことが気がかりです・・・。

 話はストレートで、ありがちで単純なのですが、なぜか強く胸をうたれます。

 人は、自分を直接見ることができません。
 鏡や写真を使って、間接的に見るだけです。
 同じように、自分のいる場所から、自分のいる場所を見ることができません。

 ハリーは、死に、幽霊としてこの世に舞い戻ることによって、自分の生きている(いた)世界、自分の人生をはじめて見ることができたのです。

 読者は読み進みながら、このハリーの「死の世界から眺める」→「生の世界」という視線を共有し始めて、いつの間にか自分の人生を見つめなおすのでしょう。

 観察する場所がずれることによって、いかに多くのものが見えてくるものか、驚くばかりです。

 何人かの盲人がゾウを触って、それぞれがゾウについて説明する話を思い出します。
 触った場所によって、「木の幹のようだ」、「ただの紐だ」、「団扇だ」、「槍の先だ」など、ばらばらの感想を述べます。
 これらの観察結果をまとめて、ゾウの姿を再現するのは不可能です。

 我々もまた、自分のいる場所から観察した結果だけを正しいと信じて、世の中や自分の人生を分かったようなつもりになっているだけ、なのかもしれません。



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半島を出よ
2009年03月08日 (日) 21:59 | 編集
半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)
(2007/08)
村上 龍

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半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)
(2007/08)
村上 龍

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 「半島を出よ」(村上龍/幻冬舎文庫)読了。

 北朝鮮の軍隊がやって来て、福岡を占領してしまうという話です。
 2005年に出版されたということですが、今ならリアリティ数段増しで読めるのではないでしょうか。

 舞台設定は2011年、日本の経済は破綻してしまってます。
 この破綻した状況の描写が、絵空事とは思えないのが怖いところです。

 円がしばらく上がった後、国債や株が暴落し、緊急事態ということで、株の取引が停止され、国債を大量に持っていた銀行が潰れ、国は借金でパンクし、円がさらに下がり、石油や食料が足りなくなる。
 すべてのATMが停止し、お金を自由に下ろせなくなり、次に円をドルやユーロと自由に交換できなくなって、消費税もだんだんと上がって最終的に17.5パーセントになった。
 日本はかなりの額のアメリカの国債を持っていたが、決して売られることはなかった。日本が持っているはずの国債の大半はアメリカ財務省の金庫にあったのだ。
 ・・・っつーシナリオなのですが、これ、現実にならないと保証できるでしょうか?

 小説としては、登場人物が多い割には分かりやすいし、テンポもよく、人物の描きこみもしっかりなされていて、よく出来ています。
 緊急事態にきちんと対処できない政府のドタバタぶりと駄目っぷりは、さもありなんという感じで苦笑してしまいます。
 最終的には、政府が何も手が打てない思考停止状態の中で、社会にうまく適応できない少年達のグループが北朝鮮の軍隊と対決していくことになっていきます。
 ハリウッド映画的な勧善懲悪の物語ではなく、なにか殺伐としてた読後感ですな。
深海のYrr
2008年12月19日 (金) 22:58 | 編集
深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1) (ハヤカワ文庫NV)深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1) (ハヤカワ文庫NV)
(2008/04/23)
フランク・シェッツィング

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 「深海のYrr」(フランク・シェッツィング/ハヤカワ文庫)読了。

 全三巻の長い小説。
 長さを感じさせない面白さでした。
 これだけ長い小説なのに、ドイツ本国では200万部以上売り上げたということですが、確かによくできてます。

 ノルウェー沖で大量発生した新種のゴカイ(沙蚕)という生物が、メタンハイドレートの層を掘っているのが発見される。
 カナダでは船舶をクジラやシャチが襲う事件が発生。
 その他、同時多発的に世界中の海で異常事態が次々と起こります。
 前半は、世界中の科学者がその原因を突きとめてくという科学的謎解き、後半はその原因に人類がいかに対応してくかという展開です。

 科学的蘊蓄の数々が興味深く、話に飽きそうになるとスペクタクルな事件が起き、お約束のように環境破壊に対する警鐘あり、最終的には人類の存在とは何か、「知性」とは何かという非常に深いテーマまで掘り下げられてゆきます。

 現代の文明というのがいかに脆いものかっつーのがよくわかります。
 我々が当然の事として享受している便利な生活は、危うい微妙なバランスの上に成り立っており、そのバランスがちょっとでも崩れると、あっという間に機能不全に陥ってしまうのです。
 本書では人類に次々に大災害が襲ってきますが、話に没頭していると、「現実にいつ起こってもおかしくないわな」という気になってきてしまう。

 マイクル・クライトン的な、うまい書き方をされていて、とくにクライマックスは圧倒的な迫力で一気に読ませます。
 ハリウッドでの映画化が決定しているそうで、さもありなんという感じです。
四十七人目の男
2008年09月22日 (月) 22:54 | 編集
四十七人目の男[上] (扶桑社ミステリー ハ 19-14) (扶桑社ミステリー ハ 19-14)四十七人目の男[上] (扶桑社ミステリー ハ 19-14) (扶桑社ミステリー ハ 19-14)
(2008/06/28)
スティーヴン・ハンター

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四十七人目の男[下] (扶桑社ミステリー ハ 19-15) (扶桑社ミステリー ハ 19-15)四十七人目の男[下] (扶桑社ミステリー ハ 19-15) (扶桑社ミステリー ハ 19-15)
(2008/06/28)
スティーヴン・ハンター

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 「四十七人目の男」(スティーヴン・ハンター/扶桑社ミステリー)読了。

 本屋で本書を目にして、びっくらこきました。
 終わったと思っていた、ボブ・リー・スワガーものの新作ではありませんか。
 しかも、舞台が日本だという
 これは、もう無条件で読まねばならんでしょう。

 ボブは、硫黄島から父親アールが日本軍の軍刀を持ち帰っているかもしれない、それを探してもらえないだろうかと頼まれます。
 その軍刀の持主は矢野大尉といい、依頼主は息子のフィリップ・矢野という人物です。
 ボブは数か月かけてその軍刀を探し出し、自ら日本の矢野家に届けるのです。
 矢野家の家族に歓待され、楽しく過ごしてさあ帰国というその日に、悲劇が訪れ、ボブはまたしても戦いの中に身を投じてゆくのだった・・・。

 話の筋は突拍子もなく、どんでん返しのカタルシスもなく、という、あまり自信を持って人に勧められる要素がない小説なのですが、ワシはなぜだか非常に楽しめました。
 というか、夢中で読んでました。
 夢中で読んだのに、読み終わったと、なぜあんなに夢中になれたんだろうっつー本がたまにありますよね。

 とにかく、あのボブが銃を全く手にすることなく、日本刀でバシバシ斬り合うのですよ。
 外国人から見た日本文化の分析がおもしろく、当たり前と思っていたことに新たな光を当てて観察しているその視点が新鮮です。

 なぜ本書を執筆したのかという経緯は、作者の謝辞に詳しく記されております。
 作者は映画の批評家が本職で、ワシントンポスト紙の映画批評部門チーフであり、2003年に批評部門でピュリッツアー賞を受賞しているという大家です。
 まずそのことを念頭において、以下引用します。

 本書を執筆することになった根源は、アメリカ映画が新たな“低み”に達したために、職業的映画批評家としてのわが人生にふさぎの虫が巣食ったことにあった。その泥沼の中で、わたしは山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』を観て、即座に復活した。そしてそれがもととなって、サムライ映画を観まくる二年間を送ることになり、その妄念は最終的に、大名や旗本などが生きた時代に材を取ってのサムライ小説を書くというアイデアに結実した。(p.366)



 結局そのアイデアはあまりに無謀であるということに気づくくらいの頭はあったので、サムライ小説とアメリカ流スリラー小説を融合させるべく努力した結果が、本書なのだという。

 さて、スワガー・シリーズを読んでいる人は果して本書を手放しで楽しめるでしょうか
 ワシはけっこう楽しめましたが、がっかりという人もいるでしょう。
 一種の賭けですな。

 本書からこのシリーズに入っていこうというのは、絶対に勧めません。
 まずは、「極大射程」(新潮文庫)を読んでみてください。これは絶対に面白いです。

極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)
(1998/12)
スティーヴン ハンター

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照柿
2006年10月16日 (月) 21:50 | 編集
照柿(上) 照柿(上)
高村 薫 (2006/08/12)
講談社

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照柿」(高村薫/講談社文庫)読了。

 読み応えアリで、ずいぶんと長くかかってしまいました。
 とにかく中身が濃い
 読んでいる時は夢中になれるのですが、家で時間を作ってまで読み続けようという気にはならない、息苦しさ。

 感想もちゃんと書こうとすると、すげー時間がかかりそうなので、今回はパスして、ま、読み終わりましたというメモにとどめとこう・・・と思います。

 あらすじは上のリンクから≪Amazon≫に飛ぶと読むことが出来ます、・・・と、ここでも手を抜く。
 ちなみに「照柿」は「てりがき」と読みます。
風化水脈 新宿鮫 8
2006年06月22日 (木) 22:22 | 編集
風化水脈 新宿鮫VIII 風化水脈 新宿鮫VIII
大沢 在昌 (2006/03/14)
光文社

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風化水脈 新宿鮫8」 (大沢在昌/光文社文庫) 読了。

 いつの間にか、もう八冊目か。
 今作はいつにも増して淡々と進む印象でした。

 鮫島が追っているのは、高級車ばかりを狙った窃盗グループ。
 グループは、自動車ナンバー自動読み取りシステム(Nシステム)を避けるため、盗んだ場所のすぐそばにナンバーを付け替える設備を持っているに違いない。
 そうにらんだ鮫島は、地道な捜査の結果、あやしい屋根付きのガレージを見つけ、そのガレージの傍にある駐車場の管理人の老人、大江と知り合う。 
 そしてまた、ばったりと出所したばかりの真壁と出会う。
 真壁っつーのは、第一作からしばしば鮫島の口に登っていて、読者に強烈な印象を残していた、ヤクザです。
 
 特に複雑な事件が起きるわけでもなく、鮫島、大江、真壁、その他の人物達の人間ドラマという感じですな。
 影の主役は、「新宿」 の街そのものという印象もあります。

 ま、あらすじを書いたところで、シリーズものの第八作目から読もうという人はいないだろうな。
 ただ、このシリーズは恐ろしく完成度が高い作品が並んでいるので、一作目の新宿鮫を読んでしまうと、何の苦もなく八冊読んでしまうでありましょう。
金春屋ゴメス
2006年05月15日 (月) 21:36 | 編集
金春屋ゴメス 金春屋ゴメス
西條 奈加 (2005/11)
新潮社

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 「金春屋ゴメス」(西條奈加/新潮社)読了。

 第十七回日本ファンタジーノベル大賞、大賞受賞作品。

 設定は近未来の日本。
 日本の中に、「江戸」 という独立国が存在する。
 この 「江戸」 ってのが、名前だけじゃなく、中身が丸ごと江戸時代という設定がイカしてます。
 しかも単なるテーマパークではないのです。
 電気、水道、ガスみんな無しで、しかも鎖国状態。
 もう、この設定だけにしびれて飛びついたという感じです。

 法律で近代的な治療が禁じられている江戸で、正体不明の疫病「鬼赤痢」が蔓延する。
 この謎を「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守とその手下が追うのだ。

 サスペンスとしては今一歩かなー?という印象も否めませんが、ただ、基本的なアイデアが素晴らしいので、ぜひとも第二弾を頑張って書いて欲しいと切に願います。
Mr.クイン
2006年04月20日 (木) 21:53 | 編集
Mr.クイン Mr.クイン
シェイマス スミス (2000/08)
The Mysterious Press

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 「Mr.クイン」(シェイマス・スミス/ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫)読了。

 ずいぶん昔に買ってあったのを発見して読んでみました。

 犯罪者が主人公という小説は数々読んできましたが、胸くその悪さでは、間違いなくランキング一位だな。
 普通は多少なりとも感情移入なりするものなのだが、今回はまったくなし。

 舞台はアイルランド、ダブリン。
 主人公、ジェラード・クインはプロの犯罪プランナー。
 この「犯罪プランナー」ってのはなにかというと、犯罪の計画だけ立てて、実行は人任せ、自分は表に出ないっつー職業なのです。
 話は、裕福な不動産会社の社長一家を事故に見せかけてみんな殺してしまい、全財産を乗っ取るという完全犯罪をいかに成し遂げるかという内容で、まぁよく出来ている。
 次々訪れる危機をずる賢くすり抜けていく手並みには関心させられますが、やり口があまりに凄惨かつ断固としていて、まったく楽しくない。
 が、話がどうなっていくのか知りたくて、読まずにはいられない・・・、という人間の心理ってのはなんなんだろう?

 主人公クインの造形が秀逸です。
 自分の子供を大切にし、ちゃんと人の気持ちも分かるのに、ひどいことを平気でやれてしまう。
 っつーか、楽しんでいるのか?
 話の進行がクインの一人称で、実に飄々とした語り口で進み、恐ろしい犯罪の進行と、軽い口調のギャップが不気味です。
 とにかく、超自己中。
 自分さえよければそれでいい。
 悪いことをしていると分かっていながら、悪いことをする。
 「悪いことをするのって、悪いことなの?」というような、下品なモラルのなさ。
 完全犯罪を犯してないにしろ、精神的な意味で、こういう異常者ってのが本当にいるかもしれないという怖さが現代社会にはあります。
 心理学とか社会学とかの難しい本を読むより、こういう小説を読んだ方が、現在の人間についてリアルで直感的な理解が出来るのではないでしょうか。
エリー・クラインの収穫
2005年02月05日 (土) 21:25 | 編集
エリー・クラインの収穫 (新潮文庫)エリー・クラインの収穫 (新潮文庫)
(1992/01)
ミッチェル スミス

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エリー・クラインの収穫」(ミッチェル・スミス/新潮文庫)読了。

 絶版になっていたのを正月にブック・オフで見つけたやつ。

 昔の文庫なので文字が容赦なく細かく、中身ぎっしり詰まってました。

 ニューヨークで高級娼婦が無残に殺されているのが発見され、エリー・クラインという女刑事が真相にたどり着き犯人を逮捕するまでが、執拗に細かい描写で描かれます。

 とにかく度を越したしつこい書き込み方で、ストーリー自体はどうってことないのに、ぐいぐい読ませます。
 この作家ならではの力技で、空気や湿度や臭いまで描き切るという感じっす。

 運良く見つけたら迷わず買うべし。読むべし。
永遠の仔
2004年12月29日 (水) 22:12 | 編集
永遠の仔〈1〉再会 (幻冬舎文庫)永遠の仔〈1〉再会 (幻冬舎文庫)
(2004/10)
天童 荒太

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永遠の仔」(天童荒太/幻冬舎文庫)全五冊読了。

 子供の頃虐待され、心に傷を持ったまま成長した若者三人の物語です。

 暗く重い話ですが、登場人物に圧倒的な存在感があり、見過ごせないというか、最後まで見届けないと気がすまなくなる。

 人間は自分に理解できない人とか上手く説明できない人などを、特別な人、変な人と考えて、見て見ないふりというか、頭の中から排除してしまうことがあるのではないだろうか。
 別に贅沢したいとか望むわけでもなく、ただ普通に生きるということが上手く出来ない、辛い苦しいという人がこの世にはたくさんいるのだ。

 心の傷というのは目に見えないだけに、自分の周りにも実は傷を持ちつつ生きている人もいるのかもしれません。
 知らず知らず、そういう人を傷つけるようなことをしたり、言ったりしてしまっているのかも。

 読むのは辛いですが、自分には関係ないとか興味ないという人も、こういう物語を読むと人との接し方や世の中の見え方も少し変わってくるでしょう。

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