こんな本を読みました。
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黒澤 明 vs. ハリウッド
2006年08月12日 (土) 22:34 | 編集
黒澤明vs.ハリウッド 黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて
田草川 弘 (2006/04)
文藝春秋
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 「黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて」(田草川弘/文藝春秋)読了しました。

 1970年に公開されたあまりパッとしない戦争映画、「トラ・トラ・トラ!」。
 この映画、最初、日本側シークエンスの演出は、黒澤明に依頼され、撮影途中で突然解任されたという出来事はよく知られております。
 客観的資料が散逸し、関係者も口を閉ざすという状況が長く続き、この出来事の真相は、長い間謎とされてきました。

 監督は辞任したのか、解任されたのか。黒澤は病気だったのか、病気ではなかったのか。もし病気でなかったのならば、どうして病気とされたのか。この混乱の責任は誰にあるのか。(p.20)


 本書はアメリカ側に残された資料を調査・研究することにより、これまで日本では等閑(なおざり) にされてきたアメリカ側の記録や証言を精査して日本側の証言と突き合わせ、日米双方の視点から、『虎 虎 虎』に懸けた黒澤明の夢と無念の軌跡を事実に即して辿ろうという試みである(p.23)


 「赤ひげ」の後、黒澤明はハリウッドで「暴走機関車」という映画を撮ることになっており、脚本も完成し、撮影寸前までいったのですが、黒沢側の都合で、お流れになってしまいます。
 「トラ・トラ・トラ!」の依頼が舞い込んだのはこの直後のことでした。

 本書の前半は、脚本の完成までの気の遠くなるような道のり。
 開戦に反対していた山本五十六が、真珠湾攻撃を仕掛け大成功を収める。が、それは眠れる巨人を起こす結果となり、祖国を滅亡の淵に追いやる端緒となってしまう。
 これをギリシア神話にも通じるような運命的な悲劇として描く、というのが黒澤監督の狙いだったのです。
 脚本を元にした黒澤の演出プランの描写を読んでいると「ああ、この映画が見たかった」と歯噛みするほど残念っす。

 「史上最大の作戦」で大儲けし、戦争スペクタクルという二匹目のどじょうをねらっていたフォックスと、黒澤の考えとは、最初から噛み合っていなかったといえるのだな。 

 本書の後半は、撮影中に起こった数々の事件と監督解任までを細かく検証してゆきます。
 「暴走機関車」を駄目にしてしまった、黒澤の弱気というか気の弱さ。
 プレッシャーに押しつぶされ、不眠に悩み、朝方まで飲酒して、酒の臭いをプンプンさせながら現場に来たという。
 突然倒れて、病院に担ぎ込まれたりする。
 かと思うと、些細なことでスタッフを怒鳴りつけ、怒りまくる。
 スタッフと対立し、ストまでおこされる始末。
 いつもの東宝のスタジオではなく、京都太秦の東映スタジオでの撮影で、スタッフは黒澤のやり方に慣れていなかったという不幸も重なるのであった。
 さらに、黒澤がこだわった、元海軍士官の素人俳優で主要キャストを固めるということの無理。
 己の思うように演技してくれないことに対するフラストレーション。

 日米の文化の摩擦というような話を想像していたのですが、この映画の解任劇に関しては、芸術家として感性が鋭すぎる黒澤が、どんどん自滅してゆき、悲劇的結末に突き進んでゆく・・・、という感じですか。

 悲劇を描くどころか、自らが悲劇の主人公になってしまったようなもんだ。

 黒澤の少し幼稚すぎるような傲慢さに対して、フォックスのプロデューサー、エルモ・ウイリアムズの人間としての大きさというか懐の深さが際立ってます。
 黒澤のわがままに偉大な監督として敬意を払いながら付き合い、解任後まで黒澤の名誉を傷つけないようにと心を砕く。
 アメリカ人というのは、もっとサバサバして、ビジネスライクな印象があったのだが、この人は特別なのだろうか。
 ちなみに彼は、「史上最大の作戦」でダリル・ザナックの右腕として働き、編集者として「真昼の決闘」で、プロデューサーとして「フレンチ・コネクション」で二度のオスカーに輝いています。

 自分が総監督であり、アメリカ側の撮影や編集にまで口出しできると思い込んでいた黒澤とフォックスとの契約問題など、映画の裏側や、日米の映画の作り方の違いなど、とても面白く読めます。

 あとがきで、著者と黒澤との関わりが明かされ、なるほどそれで本文中のあの話が書けたのかと、納得のいく仕掛けも用意されています。

 膨大なインタビュー、資料の発掘・整理など、丁寧に作られており、映画ファンの読み物としてまた資料として、非常に価値ある本であります。
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きょうオスカーの
きょうオスカーの、等閑を読了♪
2006/08/30(水) 18:21 | URL | BlogPetのきなこ #-[編集]
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